大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和25年(う)526号 判決 1950年11月08日

被告人

志賀久良

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中五拾日を本刑に算入する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人斎藤熊雄の控訴趣意第一点及び第二点について。

刑法第二百五十三条にいわゆる業務とは法令によると慣例によると又は契約によるとを問はず苟も一定の事務を常業として反覆する場合をいうのである。従つて被告人が北方産業株式会社幌延砿業所の配給主任であり同砿業所の配給物資の代金に関する業務は職制上は一切会計係で取扱うことになつて居り被告人の当然の業務ではなかつたとしても配給主任として同砿業所職員の主食等の購入配給に附随する金銭の出納保管の事務を担当していた事実のある以上その事務は被告人の業務と解すべきである。

原判決挙示の証拠によると被告人が右砿業所の配給主任として職員の主食等の購入配給に附随する金銭の出納保管の業務を担当していたことは明白であつて弁護人が指摘する司法警察員に対する被告人の供述及び証人中達一徳の供述はいづれも同砿業所の配給物資購入代金支払の権限は職制上は他の代金同様会計係に属しており配給主任にはその権限がないというだけのことに過ぎない。それであるから原判決が被告人の判示所為を業務上の横領罪に問擬したのは正当である。

(弁護人斎藤熊雄の控訴趣旨)

第一点

原判決はその理由中事実の部において

被告人は北方産業株式会社幌延砿業所配給主任として同砿業所職員の主食等の購入配給及びこれに附随する金銭の出納保管等の義務を担当して居た者であるが昭和二十四年十二月十九日から同年同月二十四日までの間に其業務上保管する越冬米等購入代金二十万円中金十万円を擅に稚内市及び天塩郡天塩町同郡幌延村において引続いて自己の飲食及遊興費等に費消して横領したものである。

と判示し被告人の職務は北方産業株式会社幌延砿業所の配給主任であつて同砿業所の職員の主食等の購入配給及び之に附随する金銭の出納保管等を担当するものであると認定したのであるが、被告人の昭和二十五年四月二十七日付の司法警察員に対する第二回供述調書の記載によると

私の業務としては日頃扱つて居る仕事としては配給関係の仕事は主でありまして其の配給諸物資の仕入及配給等でこの代価に関する業務は一切会計係で行うので、代金の支払と謂ふものは私の業務の以外のものであります

とあり又

庶務主任黒瀬清から稚内市の北海道拓殖銀行稚内支店支払の小切手額面弍拾万円を預つて食糧公団から越冬米購入のために出掛けたのでありました

とあり更に原審における昭和二十五年八月四日の第三回公判において証人中達一徳は

志賀の会社における仕事の内容は

という検察官の問に対し

主に購買関係の仕事をさせておりました

と答い、更に

金銭の出納関係はさせていたのか

との検察官の問に対し

仕事としては購買関係の仕事なので仕事の性質上購買に附随する金銭の出納関係はしていましたが会社の一般的な金銭の出納には従事させておりませんでした

と答いて居るところから見れば北方産業株式会社には其の会計係としては別に坂井貞三なるものが居つて会社一般の会計を担当し被告人は配給係として配給諸物資の仕入及配給の関係上其の仕入物資の代金を右会計係より支払うべきものを便宜上被告人が右会計係の依頼により之に代つて支払を為すに過ぎないのであつて現に本件における金弍拾万円の小切手も庶務係の黒瀬清から食糧公団に支払うことを頼まれて預つたものである。

元来売買に際しては其の対価を支払はなければならないことは当然で唯だこの代金の支払について自己の責任において支払うか又或は会計係の依頼を受け会計係の責任において自己は単に使者として支払うかの点において大なる差異を生ずるものと思う本件の如きは勿論其支払については会計係に責任のあるものであつて被告人の如きは単に其使者に過ぎなかつたのである。

即ち被告人の業務は配給係主任であつて、金銭出納の会計係ではないのであつて、会計係が当然支払うべき越冬米代金の支払を被告人は委託せられたものであるから被告人は業務上に関して本件横領をしたものでないのに原判決はこれを業務上の横領であると認定したのは事実認定に誤りのあるものであつて、而かも其の誤りは単純横領と業務上横領とでは刑の量定の上において非常な差異があるから判決に影響を及ぼすことは当然であるから破棄を免れないものと信ずる。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例